こんにちは、奈良市内で相続手続きと遺言書の作成支援を専門にしております行政書士の奥本です。
今回は、自筆証書遺言書の保管制度についてまとめてみたいと思います。
これまで一番安全かつ確実な遺言書は、公正証書遺言によるものであると言われてきました。理由は、遺言の作成に公証人が関与することで法律的な瑕疵のない遺言書を作ることができ、その上原本を公証役場で預かってもらえるため紛失や改ざん等の心配がなく、検認の手続きも必要ないからです。
検認手続きというのは、家庭裁判所で相続人立ち合いのもと遺言書を開封して確認し、内容の偽造や変造を防ぐための手続き(封印がされた遺言書を検認手続きの前に開封すると過料が課せられます)で、秘密証書遺言と自筆証書遺言の場合はこの手続きを行う必要があります。
ところが法務局で自筆証書遺言書を保管する制度を利用した場合には、検認の手続きをする必要がなくなりました。
つまりこの制度により、公正証書遺言と自筆証書遺言の差が”遺言の内容の確実性に絞られた”と言ってもいいと思います。
最近では、遺言書の書き方を説明する本もたくさん出回り、インターネットで情報を簡単に調べることもできますので、それを参考にしながら遺言書を自分で書かれる方が増えているように思います。
ただ、遺言書は強力な法的拘束力を持つ文書であるため、様式や用語に関して厳格な規定が設けられています。そのため、ちょっとした認識の間違いや、文言の誤用などで思った効果を発揮することができなかった遺言書も見てきました。
自筆証書遺言書はたしかに自分ひとりで作成することが出来るものですが、やはり専門家のアドバイスやサポートを受けられることを強くお勧めします。
さて、この制度は令和2年の 7 月に運用が始まったばかりで、開始からまだ 2年も経っていないのですが、すでに興味深いデータが出てきています。
下の表は、日本公証人連合会が発表している公正証書遺言の作成件数と、法務局が発表している自筆証書遺言書の保管件数を表にしたものです。
年 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 | 計 |
令和元年 | 113,137 | ー | 113,137 |
令和2年 | 97,700 | 12,576 | 110,276 |
令和3年 | 106,028 | 16,972 | 123,000 |
ここ数年、公正証書遺言の作成件数は 11 万件前後で推移してきました。
しかし自筆証書遺言書保管制度が始まった令和 2 年には、公正証書遺言の作成件数が 1 万 5 千件以上減って自筆証書遺言書の保管件数が 1 万2千件以上となり、公正証書遺言が自筆証書遺言へと一部流れた傾向が見て取れます。
そして令和3年には、そこから双方が増加傾向となったため、その合計の件数が12万件を超えました。
このデータが示すように、今後はこれまで以上に遺言書の作成件数が増えていくのではないかと予想されます。またそうあるべきだと私は考えます。
遺言書は財産の在る無しに関わらず、ほぼ全ての人に必要ではないかと実務に携わっている中で感じるからです。
次回に続きます。
行政書士奥本雅史事務所