農地転用8 同意書について

こんにちは。奈良県で開業している行政書士 武村直治です。

ここ数年、少し気になっていることがあります。

以前もお伝えしましたが、農地転用については、任意書類ではありますが隣接地が農地の場合は営農に支障がないかの確認の意味を込めての隣接同意書、また水利組合が存在する場合は水利組合長の同意書などに押印いただく必要がありますが(この同意書については存在しない市町村も多数あるようです)、これについて押印することにストレスを感じられる方が非常に多いように感じます。

誤解のないように先にお伝え致しますが、弊所としては同意書の意義は理解できるため、決して軽視しているわけではありません。毎案件同意書についてはかなり時間をかけており、その過大な負担からクタクタになることもよくあるのですが、手続上は必須書類ではないため添付しないといけない訳ではありません。また、ほとんどの農業委員会においては誠実に対応していただいており、私自身も担当者の方に助けられることが多く、感謝するケースも多々あります。

ただし、市町村の農業委員会からの行政指導により実質的には半強制的に取得しないといけないような状況になる地域が現在でもごく少数だと思いますが存在します。(これはこれで問題であり、令和4年に農林水産省からも通達が発出されています。こちらはまたの機会に。)

しかし、そもそも隣地者の方は、「なぜお隣の土地の事柄について私が押印しないといけないのか。お隣の土地なのだから好きに使えばよいではないか」、「転用について反対はないし営農にも問題ないが、同意書への押印まではしたくない。何かあったときに他隣地の方に私が同意したことを知られたくないため。」など、反対はないが転用についての押印には抵抗がある方が非常に多い印象です。中には、「押印してあげたいが、押印しなくても転用の許可がおりるならしない方向で農業委員会に事情を説明してもらえないか」などのお話しを頂くことも多々あります。

水利組合長(地域に水利組合がない場合は区長等)が押印したくない場合も同様で、適切な計画である場合は押印に反対する方はほとんどおらず、いじわるしたい訳ではありません。(水路に汚水が流入するなど押印しない理由があれば話は別です。あくまで常識的な範囲内での話です。)しかし、組合の代表である以上は何かあった場合に責任をとれない可能性を考えて押印したくない方もおられます。押印者はほとんどの場合は近隣の方です。ほとんど皆知り合い同士であり、また今後もその土地で生活していかなければならない以上、近隣との不和を引き起こす可能性があるなら押印したくない気持ちは痛いほど理解できます。区長や組合長から「こちらの都合で押印できなくて申し訳ない」と謝られることがあるのですが、それは役職に対し責任感を持って対応されていることの裏返しでもあり、その心情が理解できるためなんとなく私も申し訳ない気持ちになることがあります。

これらの事情につきよく理解されている農業委員会も多く、その場合は私も事前に上記の状況を正直に説明し理解・協力していただきながら進めて行くケースも多いのですが、一部地域ではその隣地者や各役員の心情を理解できない農業委員会もあるようです。農業委員会の事務局の方から、「なぜ反対していないのに同意の押印をいただけないのでしょうか」と聞かれたことがあるのですが、私からするとなぜその心情が理解できないのか不思議でなりませんでした。しかし繰り返しにはなりますが弊所でも同意書を軽視している訳ではありません。

突き詰めて考えると同意書に押印を頂きに伺うことの本質は各押印者の理解や了解であり、押印はその確認手段です。しかし、上記のような反対ではないが押印は勘弁してほしい、という場合は理由書にその旨を記載して提出するにも関わらず、また同意書自体は必須書類ではないにも関わらず、「とにかく押印にこだわってほしい」旨の意見である事務局の方もおられました。ひどい場合には、押印者の押印しない理由と、それを記載した私が作成した理由書の内容が一致しているにも関わらず、その文面と本人の話しとは「ニュアンスが少し違う」という理由で再度のアクションを求められたこともありました。

もちろん市町村の事務局の方についても、詳細な情報や同意書の押印書類が整っている方が良い事は十分理解できます。しかし同意書などにつき「合理性を欠いた理由で書類の提出を求めないこと」等の文言のある農林水産省からの通達を軽視し、ストレスを感じている相手にまで「お願い」という建前で再度押印を迫るやり方には大きな疑問を感じますし、申請者にも大きな負担がかかります。

いずれにしろ難しい問題ではあるでしょうが、これで良いのでしょうか。