相続⑦ 〜 最後の締め切り 〜

こんにちは、相続手続きと遺言書作成専門の行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

さて、前回のコラムで「遺産分割協議は10ヶ月以内にすることが望ましい」というお話しをしました。

それは相続の3つ目の締め切りである『相続税の申告と納付』の期限が10ヶ月以内だからです。

(税務申告は行政書士の業務ではありませんので、相続税については軽く触れます。)

じつは相続税には控除があり、財産の総額がその控除額以内であれば相続税額は「0」となり、相続税を払う必要はありませんし、申告もしなくて構いません。

では財産の総額が控除額以内の方は3つ目の締め切りは関係ないのか、というとそうとは言い切れません。税額が「0」でも申告をしなければならない場合があるからです。

そして相続税の申告のためには、遺産分割協議を済まさなければいけません。遺産の分け方が決まらなければ、相続税の計算ができないからです。

「でも、2つ目の締め切りからは半年も期間があるし、さすがに話し合いもまとまるのでは?」と思われるかもしれません。

しかし遺産分割協議は相続人全員で話し合うことが必要です。また遺産分割協議では『寄与分』と『特別受益』というものも考慮しないといけないのです。

寄与分とは、たとえば相続人の方が被相続人の事業を手伝ったり、被相続人を引き取って面倒をみたりして、被相続人の財産の増加に貢献したり財産の維持について特別の寄与があった場合に、法定相続分を超える財産を取得させるという制度です。(財産の増加、維持に『特別の寄与』をしたことが必要とされているため、単に身の回りの世話をした等では認められません。)

特別受益とは、相続人の方が被相続人から受けた資金援助や、遺贈(遺言により財産を受け取る)などによる特別な利益のことです。

被相続人から相続人に対して、大学や留学のための学費や住宅の購入資金などの援助があったとき、特別受益に当たる可能性があります。
特別受益を受けた相続人が、もし法定相続分通りに相続したとすると、他の相続人との間で不公平が生れます。

そこで、特別受益があった場合には『特別受益の持ち戻し』という計算を用いて相続分の調整を行います。特別受益を受けた相続人の法定相続分から、特別受益の金額を差し引くわけですが、以下のような計算をします。

①特別受益の金額と、相続財産の金額を合計します(『みなし相続財産』といいます)

②法定相続分で分割した金額を計算します

③特別受益があった相続人の相続分から特別受益の金額を差し引きます

※ ①に関して、特別受益のうち、遺贈については相続財産に含まれていますので加算はしません。


例)

相続財産1200万円を兄弟3人で分ける(法定相続分では平等に400万円ずつ。ただし長男が被相続人から300万円の資金援助を受けていた)

みなし相続財産(相続財産➕特別受益)=1500万円

一人当たりの法定相続分(みなし相続財産➗3人)=500万円

長男の取得分(一人当たりの相続分➖特別受益分)=200万円

相続分は、長男が200万円、弟2人が500万円ずつ


 

このような寄与分、特別受益については各相続人で主張が食い違うケースもしばしば見受けられ、遺産分割協議が長引いてしまう原因ともなっています。

他にも、親子や兄弟姉妹の間柄であっても感情的なもつれがある場合や、相続人が疎遠な親類である、または海外など遠方に住んでいる場合など、思った以上に時間がかかってしまう原因はたくさんあります。

ところが10ヶ月以内に相続税の申告をしないと、【配偶者の税額軽減】と【小規模宅地等の特例】という2つの特例を受けることができなくなるのです。

【配偶者の税額軽減】とは、配偶者は相続する財産が、法定相続分以下か1億6000万円までなら税額が控除されるという制度です。

【小規模宅地等の特例】は、被相続人が居住していた宅地を相続する際、一定の条件を満たした場合に評価額を80%減額するというものです。

どちらも非常にお得と言える制度ですが、適用を受けるためには相続税の額が「0」でも申告をしなければなりません。

「相続財産の総額は基礎控除の額を超えているけれど、この制度を適用すれば控除額以内におさまるから」と思われたとしても、相続税の申告はしなければなりませんのでご注意ください。

※ 相続税の基礎控除=3000万円➕600万円✖法定相続人の数(例えば相続人が、配偶者と子供2人の場合なら4800万円まで非課税)

次回は、相続についてのまとめをしてみたいと思います。

相続⑧につづく、、、

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