自筆証書遺言書の保管⑩まとめ《後編》

こんにちは、奈良市内で相続手続きと遺言書の作成支援を専門にしております行政書士の奥本です。

前回の終わりに『遺言書は財産の在る無しに関わらず、全ての人に必要ではないかと実務に携わっている中で感じる』と書きました。

財産が全くのゼロであるという場合には遺言書は必要ないかもしれません。しかし亡くなった方が不動産や自動車、預金や株式などの財産をいくらかでも所有されていれば必ず名義変更や解約の手続きをしなければならず、その際には”遺産分割協議書”か”遺言書”が必要となってきます。

遺産分割協議書は、相続人全員の話し合いによって決めた財産の分け方を記した書類で、相続人に作成の負担がかかる上、故人の意思はそこに反映されません。

ですが遺言書なら、生前に遺言者が作成することができ、死後の財産の分け方を自分で決めておく事ができます。

特に、ご自宅だけが主な財産であるという場合は要注意です。遺言書が無い場合は、原則として法定相続分の割合で財産を分けることになりますが、不動産は簡単に分けるというわけにはいきません。

例えばご自宅を子供の一人だけに相続させたいと考えたとき、他の子供達にはそれぞれの法定相続分の現金などを手当することになりますが、手当に十分な現金が無い場合は不動産を相続した子との間に不公平が生じるため、自宅を相続をした子が(少なくとも遺留分相当の)現金を負担することになります。

ですが遺言書には『付言事項(法律的な効果を持たない記載事項)』として、遺言者の希望や気持ちを相続する方々に宛てて書いておくことができます。

『〇〇に自宅を相続させたいと思っているが、それは長年私たちの面倒をみてくれた感謝の気持ちであるので、遺留分の請求は行わずにこれからも兄弟仲良く暮らしていってほしい』といった文章を記しておくことも有効な手立てと考えられます。

こういった付言事項も、自筆証書遺言の方が比較的自由に書きやすい(公正証書遺言の場合は少なくとも公証人と証人に内容を見られてしまうので)という一面があるのではないでしょうか。

さて、自筆証書遺言書の保管制度では、遺言者が亡くなった時にあらかじめ決めておいた相続人一名(または遺言執行者)に対して通知がなされるという仕組みが設けられています。

これにより、もしも生前に遺言書を書いたことを誰にも伝えていなかったとしても、遺言書の存在を知ってもらうことができます。

これは公正証書遺言にも無かった制度で、非常に画期的であると言えます。

では、自筆証書遺言書の保管制度のデメリットはなんでしょうか。

まず本人が必ず法務局に出向かねばならない点が挙げられます。

公正証書遺言の場合は公証人に出向いてもらって作成することが可能ですので、入院中や施設におられる方でも作成することができます。

様式に関する要件もかなり厳しく、氏名は戸籍通りの記載が必要で、通称や雅号、ペンネームは不可となっています。

またスキャナで読み取って画像データ化する関係上、余白にも注意が必要です。上5㎜、下10㎜、左20㎜、右5㎜の余白は必須で、もし1文字でもはみ出していた場合には書き直さなければいけません。

窓口での申請手続きには1時間ほどかかり、提出する申請書や遺言書の内容について専門的な質問をされることがしばしばあるという点も見過ごせません。

(ちなみに窓口では、ご自分が書いた遺言書の内容についての質問には応じてもらえません)

自筆証書遺言書の保管制度自体は、誰もが利用できることを目指して設けられたわけですが、馴れていない方にとってはいろいろと難しい面があることも否めません。

やはり遺言書作成の段階から専門家のサポートを受け、保管申請手続きの当日も専門家に付き添ってもらうことをお勧めいたします。

最後にもう一つ。

この制度はまだ始まって2年足らずの新しい制度であるため、「金融機関等が遺言書情報証明書できちんと対応してくれているのか?」という点が少し気になっていました。

しかしすでに相続手続きでこの制度を利用された方にお話を伺ったところ『銀行の手続きは驚くほどスムーズでした』とおっしゃっていたので安心しました。

自筆証書遺言書の保管制度は、今後ますますの利用拡大が期待されます。

もしもご興味をお持ちでしたら、ぜひお近くの行政書士に一度ご相談ください。

←前の記事 ↑ページの先頭へ 次の記事→

行政書士奥本雅史事務所

http://okumoto.tribute-mj.net