遺言執行者①

こんにちは、相続手続きと遺言書の作成支援を専門にしております行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

遺言書を作成する本人(遺言者)が全文を自筆する自筆証書遺言書の保管制度については、これまでのシリーズで詳しく述べてきました。(コラム『自筆証書遺言書の保管』はこちらから)

今回からは、実際に自筆証書遺言書を自分で作成する場合の注意点についてお話しをしていきたいと思います。

一般にあまり馴染みがなく、何のために必要なのかが理解しにくいと思われるのが『遺言執行者』です。

遺言執行者というのは「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法第1012条第1項)」者で、読んで字のごとく遺言を執行する者ということです。

ご自分で遺言書を作成される場合には、本文中で遺言執行者を指定するようにしていただく事をお勧めします。

これは、相続人間の意見の不一致や、一部の相続人の非協力などにより遺言の公正な執行に支障が出るような場合にも、遺言執行者に遺言の執行を委ねることにより適正かつ迅速な執行が期待できるからです。

遺言執行者になれるのは、未成年者と破産した者以外の者です。

また、遺言執行者は複数人指定することもできますし、行政書士法人などの法人を指定することも可能です。

一般的には相続人の誰かを指定するというケースが最も多いようです。

ですが相続人を指定した場合は、遺言執行者であると同時に財産を相続する当事者でもあるため、他の相続人との間において利害の対立が生じる可能性も否めません。

このようなケースが予見される場合には、法律の専門家など第三者を遺言執行者に指定し、争いを未然に防ぐよう努めることが望ましいと言えます。

「遺言執行者さえ指定しておけば・・・」という一例を挙げておきます。

A子さんはご主人が亡くなられましたが、ご主人は生前にご自分で書かれた遺言書を残しておられました。A子さん夫妻には子どもがおらず、相続人はA子さんとご主人の3人のご兄弟、合計4人です。

遺言書には『妻に自宅を譲渡する』と書かれており、遺言執行者に関する記述はありませんでした。

この場合の問題点は、

①「相続させる」ではなく「譲渡する」と書かれていた点

② 遺言執行者の指定が無かった点

の2つです。

まず①ですが、遺言書は強力な法的拘束力を持つ文書であるため文言の取扱いにも非常に厳しく「相続させる」となっていれば特定財産承継遺言(特定の財産を特定の相続人に相続させる遺言)としてA子さんが単独で自宅の名義変更を行うことができるのですが、「譲渡する」と書かれていたことで遺贈(被相続人の死後に財産を無償で譲ること)とみなされ、相続人全員が登記義務者になるため共同申請をすることが必要になってしまいました。

ご主人のご兄弟もすでに高齢だったこともあって、実印の押印を渋る方がいたり、戸籍謄本や印鑑登録証明書の取得などに多大な時間を費やしました。

しかしたとえ「譲渡する」となっていても、②遺言執行者が指定されてさえいれば遺言執行者が登記義務者となり、受遺者(遺贈を受ける者、この場合A子さん)を登記権利者として2人で登記申請を完了させることができたのです。

このように、せっかく遺言書を準備していても、ほんの些細なミスによって狙い通りの効果を発揮することが出来ず、悔しい思いをすることがあります。

もちろん独学で作成された遺言書が全く無駄になるという訳では無いのですが、どうせなら専門家からアドバイスを受けてしっかりした内容の遺言書を作成する方が、結果大きな安心に繋がると思います。

遺言書を作成しようと思い立ったら、まずは気軽にご相談ください。

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