遺言書⑭ 〜秘密証書遺言 後編〜

こんにちは、相続手続き・遺言書作成専門の行政書士 奥本雅史事務所の奥本です。

今回は、秘密証書遺言についてもう少し詳しく見ていきたいと思います。

秘密証書遺言の本文の訂正・加除については、自筆証書遺言の規定が準用されます。
すなわち、『遺言者がその場所を指示し、変更した旨を付記して署名をし、かつ変更した箇所に押印をすること』が必要です。(詳しくは 〜遺言書⑧〜で)

秘密証書遺言を作成するためには、公証役場で2名以上の証人に立ち会ってもらわなければなりません。この証人の資格については、公正証書遺言の規定が準用されます。つまり、

①未成年者
②推定相続人および受遺者、これらの配偶者および直系血族
③公証人の配偶者、4親等内の親族、書記および使用人

以外の者です。
公正証書遺言の場合とは違って遺言の内容までは知られることが無いので、知人・友人などに頼みやすいという点はあるかも知れません。ですがやはり秘密を守れる信頼できる人物を選んで依頼するということは大切でしょう。なお、代筆した筆者を証人から除くという規定は存在しないため、筆者も証人になることができると解されています。

成年被後見人が秘密証書遺言を作成する際には、立ち会った医師が『遺言者が遺言をするときにおいて精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態に無かった旨(きちんと遺言の内容を理解することができる状態だったという証明)』を封紙に記載して署名捺印をしなければなりません。

秘密証書遺言の保管についてですが、公証役場が保管してくれるのは『秘密証書遺言による遺言書が作成された』という事実だけで遺言書の原本を保管する訳では無いので、自分でしっかりと管理をしなければなりません。これに関しては、現状(令和元年8月現在)の自筆証書遺言と同じく、紛失・改ざん・隠蔽等の危険性があると言えます。

秘密証書遺言の場合、遺言者が亡くなった後、遺言書を家庭裁判所へ提出し検認の申し立てをする必要があります。この際には遺言書の封を開けずに裁判所へ提出しなければなりません。(検認を経ないで遺言を執行した場合や、封を開けてしまった場合は五万円以下の過料が科されます。)

秘密証書遺言を作成する際、公証役場に支払う手数料は11,000円です。公正証書遺言を作成する場合と比べると、安く作成することができます。

秘密証書遺言が実際に利用されている件数は、実はそれほど多くはありません。
『遺言書の内容は秘密にしたまま、作成した事実だけは残すことができる』という秘密証書遺言の特徴は、一見すると魅力的にも感じます。

ですが、公正証書遺言の作成と同じぐらい手間がかかる上に、遺言書の内容面や保管面での不安、検認が必要なことなどを考え合わせれば、公正証書遺言を作成する方がより賢明と言えるでしょう。

もちろん当事務所では、秘密証書遺言の作成についてもご相談をお受けしておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

 

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遺言書⑬ ~秘密証書遺言 前編~

こんにちは、相続手続き・遺言書作成を専門としております行政書士 奥本雅史事務所の奥本です。

これまで、普通方式の遺言書には3つの種類があるということをお話ししてきました。

遺言書の全文(財産目録を除く)を自筆で書かなければいけない自筆証書遺言、公証役場で公証人のチェックを経て作成される公正証書遺言、そしてもう一つが今回ご説明する秘密証書遺言です。

秘密証書遺言は『遺言書の内容は秘密にしておきながら、遺言書が存在することを公証役場で証明してもらうことができる』というものです。

公正証書遺言の場合には、遺言書の内容が公証人と証人に知られてしまうというデメリットがありました。

秘密証書遺言を作成する際にも、公正証書遺言と同じく2名以上の証人の立ち会いが必要ですが、秘密証書遺言の場合はすでに封をした遺言書について『これは確かに○○さんの遺言である』という証明をするだけなので遺言の内容については知られることがありません。

これが秘密証書遺言の大きなメリットです。

そしてもう一つの大きな特徴は、第三者の代筆でも良いという点です。

しかも、ワープロやタイプライターで作成したものでも良いと認められているため、字を書くことが困難な方でも作成をすることができます。(ただし、遺言者が氏名だけは自筆で記入して、印鑑を押印することが必要です)

では、秘密証書遺言の要件を詳しく見ていきましょう。

《要件》

①遺言者が、遺言書に氏名を自書し押印すること

②遺言者が、その遺言書を封じ、遺言書に使ったものと同じ印章を用いて封印をすること

③遺言者が、公証人と証人(2人以上)の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨と筆者の氏名と住所を申述すること

④公証人が、遺言書を提出した日付と遺言者の申述の内容を封紙に記載した後、遺言者、証人とともにこれに署名し押印すること

まず①について、遺言書の本文は代筆およびワープロ等での作成が可能ですが、氏名だけは遺言者が自署し、印鑑を押さなければなりません。

次に②ですが、遺言書に押したものと同じ印鑑で封印をすることが必要です。もし違う印鑑を押していた場合は秘密証書遺言としての要件を欠くことになります。

③については、筆者(遺言書を作成する際、ワープロ等を操作した者が別にいる場合はその者が筆者となります)の氏名と住所も申述することが必要です。

これらの4つの要件のいずれかを欠いてしまった場合には、秘密証書遺言としては無効となります。ですが、もし自筆証書遺言の要件を満たしていれば自筆証書遺言としては有効と認められます。

ただそのためには遺言書を作成する際に、遺言者が全文を自書(財産目録は除く)し、作成した日付を記入、署名捺印することが必要です。

じつは秘密証書遺言の場合には、④にあるように公証人が提出した日付を封紙に記載するため、遺言書自体への日付の記入は要件に含まれていません。

しかし、万が一秘密証書遺言の要件を欠いてしまった場合の事も考えて、遺言書は自筆証書遺言の要件を備えたものを作成しておく方が安全だと言えるでしょう。

次回は、秘密証書遺言についてさらに細かく見ていきたいと思います。

 

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遺言書⑫ 〜自筆証書遺言 番外編〜

こんにちは、相続手続きと遺言書作成を専門としております行政書士 奥本雅史事務所の奥本です。

今回は、自筆証書遺言の制度がどのように変わるのかを見ていきたいと思います。

日本はすでに超高齢社会を迎えており、今後、相続の件数はますます増加していくことが予想されます。
そのため自筆証書遺言のデメリットを改善し活用しやすくすることで、相続財産のスムーズな承継を促し、無用な相続争いを防ぐことが必要であると考えられました。

昨年の民法改正で自筆証書遺言の自筆要件が緩和され、同時に『法務局における遺言書の保管等に関する法律』が制定されたのには、このような背景があります。

それでは、『法務局における遺言書の保管等に関する法律』の具体的な内容について見ていきましょう。

 

《定められている主な内容》

①遺言書保管所(法務局)で遺言書を保管すること

②『遺言書保管事実証明書』の発行

③『遺言書情報証明書』の発行

④検認の適用除外

⑤手数料

 

①遺言書保管所(法務局)で遺言書を保管すること

遺言書を作成したら、遺言者本人が遺言書保管所(法務局)へ出向き、遺言書保管官に対して保管の申請を行います。
遺言書は自筆証書遺言で、封がされていない、法務省令で定めた様式(別途定められる予定)に従って作成された遺言書でなければなりません。

申請を行うのは、遺言者の住所地、本籍地、または所有する不動産の所在地を管轄する法務局となります。

保管申請がなされた遺言書は原本が保管されるとともに、遺言書の画像情報や作成年月日、遺言者の氏名や生年月日等の情報が併せて管理されます。

なお保管申請の際に、遺言書保管官が遺言書のチェックを行ってくれますが、遺言自体の有効性にまで踏み込んで検討・判断をするわけではありません。
公正証書遺言の場合は、公証人が遺言の有効性についての確認をしてくれますので、ここが公正証書遺言との大きな違いであると言えます。

そして遺言者は、遺言書が保管されている法務局に対して、いつでも遺言書の閲覧を請求することができます。ただし申請と同様、遺言者本人が出頭する必要があります。

また、遺言者は遺言書が保管されている法務局に対して、いつでも保管申請の撤回をすることができます。申請が撤回されると遺言書が返還され、管理されている情報が消去されます。こちらも、遺言者本人が出頭しなくてはなりません。

 

②『遺言書保管事実証明書』の発行

自分が関係相続人等(相続人、受遺者、遺言執行者など)に該当する遺言書(特定の亡くなられている方のもの)が保管されているかどうかその有無について、もし保管されている場合には作成年月日などの情報について記載される証明書です。
これは誰でも交付を請求することができ、遺言書が保管されている法務局以外の法務局でも請求をすることが可能です。

 

③『遺言書情報証明書』の発行

法務局で保管されている遺言書に関する情報(画像情報等)が記載された証明書です。
こちらは遺言者の関係相続人等が請求することができます。(ただし遺言者が亡くなっている場合に限る)
この証明書も②と同じく、遺言書が保管された法務局以外でも請求することができます。
また関係相続人等は、遺言者が亡くなっている場合に遺言書の閲覧を請求することができます。閲覧については遺言書が保管されている法務局に請求しなければなりません。

 

④検認の適用除外

自筆証書遺言の場合、発見後に偽造や変造をされる恐れがあるため、検認の手続きをすることが必要でした。
検認は家庭裁判所が遺言書の現状を確認し、内容を保全することが目的です。
しかし、法務局で保管されている遺言書は内容や保管の状況等が明確なため、検認は不要とされました。

検認には、相続人、受遺者等に遺言書の存在が通知されるという役割もありますが、これについても同法で遺言書情報証明書の交付や遺言書の閲覧をさせた時には、相続人等へ通知をすることと定められていますのでこの役割は補完されていると言えます。

 

⑤手数料

遺言書の保管の申請、閲覧請求、各種証明書の交付等には手数料が必要ですが、金額に関してはまだ未定です。

このように令和元年6月21日現在、まだ詳しく決まっていない事項がありますが、新しい情報が入り次第またこちらのコラムでお知らせしていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。

 

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遺言書⑪ 〜公正証書遺言 後編〜

こんにちは、相続手続きと遺言書作成を専門にしております
行政書士 奥本雅史事務所の奥本です。

元号が令和に変わって2週間ほどが過ぎました。仕事で作成する書類にも何度か令和元年と入れましたが、平成と30年以上も書いてきたので、まだまだ慣れず、なんだかぎこちない感じがしています。
皆さんはもう令和と書くのに慣れられましたか?

さて、前々回のコラムでは公正証書遺言のメリットを、前回はそのデメリットについて見てきました。

公正証書遺言は現在のところ、確実性、信頼性、安全性において一番優れていると言えます。ですがその反面、費用と手間がかかるため作成や書き直しを気軽にすることは出来ないという問題点がありました。

一方、自筆証書遺言には費用面での優位性があります。
しかし、全文自筆で書かなけばいけない点、保管面での不安、検認が必要なことなど多くのデメリットもありました。

そこで、自筆証書遺言のデメリットを解消し利用を促進するために民法の改正(自筆証書遺言に財産目録を添付する場合は自筆でなくとも良い、という自筆要件の緩和)が行われ、それと併せて『法務局における遺言書の保管等に関する法律』が制定されました。

この法律はすでに公布はされていますが、施行が令和2年7月10日からとなっており、まだ手数料等についての詳細な部分が決まっていません。

ですがこの法律が施行されると、自筆証書遺言を法務局で預かってもらえるようになります。

これにより、遺言書の紛失や改ざん、隠蔽などの心配が無くなり、またこの制度を利用した際には検認の手続きも不要となるため、自筆証書遺言のウィークポイントは大幅に縮小することになります。
(なお、施行前には法務局に保管の申請をすることはできませんのでご注意ください。)

前回の最後に「公正証書遺言の優位性が“絶対”とまでは言えなくなるかもしれない」とお話ししたのはこのためです。

では次回は、この制度についてもう少し詳しく見ていきたいと思います。

 

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遺言書⑩ ~公正証書遺言 中編~

こんにちは、相続手続きと遺言書作成専門の行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

前回、公正証書遺言のメリットを自筆証書遺言と比較しながら見ていきました。
今回は、公正証書遺言のデメリットとは何かを考えてみたいと思います。

公正証書遺言を作成する際には『2名以上の証人』が必要です。
証人は、遺言書作成の当日に公証人役場へ一緒に行ってもらい、遺言書の作成に立会ってもらいます。

そのため、事前に証人となってくれる人を2名以上探し、依頼しておかなければなりません。
ところが民法には、以下の者は証人になることができないという規定があります。
➀未成年者
➁推定相続人および受遺者、これらの配偶者および直系血族
➂公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および使用人

➁を見てもらえばわかるように、一番頼みやすい存在である、近しい親類に頼むことができないのです。

そして、信頼がおけない人物に頼むことも避けないといけません。
証人の役割は、遺言書の内容が遺言者の意思の通り正確に記載されているかを確認し証明することです。つまり、遺言の内容は全て証人に知られてしまうことになります。秘密を絶対に守ってくれる、信頼できる人物でなければ、証人を依頼することができないということです。

万一、遺言書の内容が誰かに漏れてしまえば、財産を狙ったトラブル等が起こる可能性も無いとは言い切れません。

ですので、証人は職務上の守秘義務がある行政書士等の専門家に依頼するのが適切でしょう。また、公証人役場でも証人を紹介してもらうことができます。(費用は別途必要)

それからもうひとつ、費用面の問題があります。
公証人役場で公正証書遺言を作成してもらう際には手数料が必要となります。

これは目的物の価額に応じて、以下の表のように定められています。

目的物の価額

手数料

100万円まで 

5000

200万円まで 

7000

500万円まで 

11000

1000万円まで 

17000

3000万円まで 

23000

5000万円まで 

29000

1億円まで 

43000

1億円を超えて3億円まで

43000円+超過額5000万円まで毎に13000円加算

3億円を超えて10億円まで

95000円+超過額5000万円まで毎に11000円加算

10億円を超える場合

249000円+超過額5000万円まで毎に8000円加算

この手数料は、相続人あるいは受遺者一人あたりのものです。相続人、受遺者が複数人いる場合には、それぞれの人について手数料を算出し合算します。

例えば、妻に2000万円、二人の子供に1000万円ずつの財産を相続させる遺言を作成する場合、

23000円+17000円+17000円=57000円

となります。
これに加えて、目的の価額の総額が1億円以下の場合には、遺言加算といって11000円が加算されます。

上記の例では総額が1億円以下ですので、先程計算した57000円に11000円を加えた68000円が手数料の額となります。

なお、遺言者が病気や高齢等の理由で公証人役場に行くことが出来ない場合には、公証人が自宅や病院に赴き遺言書を作成することもできますが、この場合には手数料は50%加算となり、公証人の旅費や日当も必要になります。

さらに公正証書遺言は、公証人役場で保管される「原本」、遺言者に交付される「正本」と「謄本」の3部が作成されますが原本は3枚を超えた場合1枚毎に250円が加算され、正本、謄本については1枚につき250円が必要です。

以上が、公証人役場に支払う手数料です。

遺言者ご自身で公証人役場とやりとりをする場合には、この手数料で作成できるのですが、実際には行政書士等の専門家に相談して間に入ってもらう方のほうが多いでしょう。
専門家に依頼することで、推定相続人や財産についての調査、必要な書類の準備、遺言書の原案の作成、公証人との打ち合わせ等を任せることができます。
ただし、専門家への報酬は発生します。(当事務所の場合、報酬額は5万円です。また信頼のおける証人も一名1万円でご紹介させていただきます。)

これらの費用(公証人役場の手数料、専門家の報酬、証人の謝礼 等)の総額が公正証書遺言の作成費用となります。

このように費用が高額となってしまうため、『気軽に何度も作り直す』というわけにはいかないのが公正証書遺言のデメリットではあるのですが、遺言書としての確実性、安全性、信頼性においては、現在のところ公正証書遺言が一番優れていると言えます。

しかし、この度の民法改正によって、自筆証書遺言に対する公正証書遺言の優位性が“絶対”とまでは言えなくなるかもしれません。

次回は、それについて触れてみたいと思います。

 

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遺言書⑨ 〜公正証書遺言 前編〜

こんにちは、相続手続きと遺言書作成専門の行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

先週の日曜、平成31年3月3日から、奈良市の各証明書が大手コンビニエンスストアなどで取得できるようになりました。(ただしマイナンバーカードが必要です。)
取得できる証明書は以下のものです。

・住民票の写し
・戸籍全部(個人)事項証明書
・戸籍の附票
・印鑑登録証明書
・課税(非課税)証明書

手数料は窓口と同額ですが、土日祝でも取得することが可能なうえ、利用時間も午前6時半から午後11時までとなっていますので「平日の日中、市役所に足を運ぶ時間がなかなか取れない」という方には嬉しいサービスだと思います。

テクノロジーの進歩が、行政サービスの向上にも繋がって、暮らしがますます便利になっていきますね。

インターネットの普及により、行政手続きの電子化もどんどん進んできました。我々、行政書士も時代の変化に対応できるよう、常に努力をしていかなくてはなりません。

 

さて、それでは遺言書に話を戻したいと思います。今回は、普通方式の中の『公正証書遺言』についてです。

公正証書遺言とは、公証役場公証人が公正証書により作成する遺言のことです。

公証役場という場所は一般の方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、公証人(裁判官や検察官を長く務めた者で、公募に応じた者の中から法務大臣が任命する公務員)が公正証書の作成や、株式会社などの定款の認証を行う役場で、奈良県の場合、奈良市と大和高田市にあります。

では、公正証書遺言のメリットとはなんでしょうか?前回ご説明した、自筆証書遺言と比べて見ていきましょう。

まず、自筆証書遺言は自分自身で保管をしなくてはならないため紛失・汚損・災害等による滅失などの恐れ、また第三者によって隠匿・破棄・改ざんなどをされる可能性があります。
それに対して公正証書遺言は、公証役場で遺言書の原本を保管するためその心配がありません。(原則20年間保管、奈良市の公証役場では本人が120歳になるまで保管します。)

次に、自筆証書遺言を自分で作成した場合には、法律で定められた要件を欠いていることにより無効となってしまったり、相続人の遺留分に対する考慮が無かったためにかえって紛争の元となってしまう危険性などがあります。
公正証書遺言は、公証人が内容の確認を十分行った上で作成するため、要件を満たさず無効となる心配や、遺留分その他への配慮も万全です。

さらに、自筆証書遺言は相続が発生した時(つまり遺言者が亡くなられた時)に、相続人が遺言書を裁判所に提出し、検認の手続きをしなければなりません。

しかし公正証書遺言は、裁判所での検認の手続きが不要です。したがって、相続発生と同時にその遺言書は有効となり、相続財産の処分をただちに開始することができます。

なお公正証書遺言の検認手続きが不要なのは、遺言書の原本が公証役場で保管されているため改ざんされる恐れが無いこと、また公証人が公正証書を作成するにあたっては、公証人法による厳格な職務規定がおかれているため、遺言の内容をあらためて検証する必要が無いから、という理由です。

最後に、自筆証書遺言は全文自筆(財産目録を除いて)が要件ですので字が書けない方は作成することができませんが、公正証書遺言は公証人に内容を口授することで作成できますので、字が書けない方でも作成が可能です。(もしお話しもすることが出来ない場合には通訳者による通訳(手話通訳等)により作成することも可能です。)

自筆証書遺言と比べてこのようなメリットを持っている公正証書遺言ですが、デメリットはないのでしょうか。

これについては次回見ていきたいと思います。

 

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遺言書⑧ 〜自筆証書遺言 後編〜

こんにちは、相続手続きと遺言書作成専門の行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

今回も引き続き、自筆証書遺言についてお話しをいたします。
まずは簡単におさらいをしておきたいと思います。

自筆証書遺言とは読んで字のごとく、全文を自筆により作成する遺言書のことでした。
本文の内容はもちろん、日付と氏名を自書して、押印をすることが必要です。

《自筆証書遺言の作成例》

また自筆証書遺言は相続開始後、遅滞なく家庭裁判所で検認を受けなければなりません。(封印されていた時は開封せずに家庭裁判所へ提出します)
違反した場合は五万円の過料が科されます。

前回はこの検認手続きまでご説明をいたしました。

さて、自筆証書遺言には変更や誤りがあった場合の訂正の方法にも厳格な要件が求められています。ここでもう一度要件を見てみましょう。

《要件》
①遺言者が全文、日付、氏名を自書し、印を押す。
②加除その他の変更は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記してこれに署名し、かつその変更の場所に印を押す。

要件の②、言葉を書き加えたり削除したりする場合には、その場所を指示して押印をし、変更した旨を付記してさらに署名をしなければなりません。

《加除その他の変更の例》

この例のように、訂正した行の欄外に「本行2字加入」と記載し署名をする方法や、遺言書の末尾に『付記』として「本遺言書◯行目中 ◯◯を△△と訂正した」等と記載し署名をする方法などがあります。
いずれの場合でも、署名が無ければ加除訂正は無効となってしまうため注意が必要です。

このように、自筆証書遺言は費用がかからないというメリットがある一方で、作成には厳格な要件が求められているため要件を欠いて遺言書が無効になってしまうというケースを招く恐れがありました。

その点も踏まえ、昨年の民法改正では自筆証書遺言の要件が緩和されることとなりました。(施行は平成31年1月13日から)

これまでは全文自筆であることが求められていたため、財産の目録も当然すべて自筆で書かなければなりませんでした。

しかし不動産を多数所有している場合などは、そのすべてについて所在や地番等を細かく記入する必要があり、大変な労力がかかるとともに、誤記が発生する可能性などもありました。

そこで今回の改正では、財産目録を添付する場合には、ワープロで作成したものや、第三者によって代筆されたもの、また不動産登記事項証明書や銀行の預金通帳等の写し(コピー)でも良いとされました。

ただし、その目録が複数枚に渡る場合はそのそれぞれに署名押印をしなければなりません。また目録が両面になる場合は、裏表とも署名押印が必要です。

なお、財産目録の加除訂正に関しても変更箇所の指定と押印、変更した旨の付記と署名が必要となります。

このように、自筆証書遺言はその要件によく注意をすれば、ご自分で作成することもできます。

しかし、将来的な争いを招かないようによく検討された遺言書を作るためには、やはりプロのアドバイスが必要となります。

当事務所では自筆証書遺言の作成についてのご相談もお受けしておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

 

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遺言書⑦ 〜自筆証書遺言 前編〜

こんにちは、相続手続きと遺言書作成専門の行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

2018年も残すところあと10日ほどとなりました。
年末年始となれば、普段は離れて暮らしているご家族が実家で集まるという方も多くおられるのではないでしょうか。

せっかく家族が顔を合わせる機会ですので『相続や遺言書の話なんて縁起が悪い』などと言わず、一度じっくりそんな話をされてみてはいかがでしょう。

とは言え、、、現実にはなかなか話しづらいものですよね。

でも例えば、「親父は株をやってないの?」とか「自分が(存在を)聞かされてない土地とか無いよね?」などという財産に関する話題をそれとなく切り出してみたり、親戚で相続が起こった場合には相続人の関係はどのようになるのかをみんなで一緒に考えてみるといったことが、話の良いきっかけになるかもしれません。
また、エンディングノートを持参して記入を(あえて)手伝ってもらうというのも一つの手です。

自然な話の流れの中で、自分達の相続について客観的に見つめることができれば大変有意義だと思いますし、そこまで話が進まなかったとしても何か知らなかった新事実が一つ確認できただけで大成功です。

昨今、相続や遺言書に対する意識は徐々に高まりつつありますが、一般的にはまだまだ敬遠されがちな話題でしょう。相続の時に必要な財産などの情報について、一度に全部を聞くことは無理だったとしても、少しずつでもいいので確認をしていくことが大事だと思います。
この年末年始にはぜひ試してみてください。

さて、今回からは『普通方式』の遺言書についてお話しします。遺言書には、死を覚悟した時になってから書くものだけではなく、ある『思い』が生まれた時に書くものもあります。
例えば相続の時に家族が揉めるのを防ぎたい、自分の死後には財産をこう使って欲しい、そういった思いが生まれた時にそれを実現するため『早いうちから』準備をしておくのが普通方式の遺言書です。

普通方式の遺言書には、「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」の3つがあります。

まずは自筆証書遺言についてです。
この自筆証書遺言は、この度改正される民法で要件が緩和されることになりました。しかし、改正民法が施行されるまでの間に作成された遺言書に関しては現行の民法の規定が適用されますので、今回は執筆時点(2018年12月21日)の現行の民法に則ってお話しをいたします。

自筆証書遺言は、文字通り遺言者本人が全文を自筆により作成するものです。

自分で書いて自分で保管するため、費用も特にかからず一番手軽に作成できるのですが、作成に当たっては法律で要件が厳格に定められており、その要件を満たしていなければせっかく書いた遺言書が無効になってしまう場合があります。民法第968条で定められている自筆証書遺言の要件は以下の通りです。

《要件》
①遺言者が全文、日付、氏名を自書し、印を押す。
②加除その他の変更は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記してこれに署名し、かつその変更の場所に印を押す。

全てを自筆で作成するのは、遺言者の最終意思、真意を尊重し、偽造や変造を防止するためです。
したがって、パソコン、ワープロ、タイプライター等により作成することや、他人に代筆させることはできません。

また日付についても遺言者の自書が必要とされています。これは、遺言作成時の遺言者の遺言能力の有無(遺言能力が無い場合の例: 遺言作成時に15歳に達していない、認知症や精神疾患により意思能力がないと判断される場合)や、内容が異なる複数の遺言がある場合に、その先後を明らかにするためです。日付が無い遺言は無効となります。

日付は年月日を明らかにして記します。西暦、元号はどちらでも構いません。日付は遺言の成立の日が確定できれば問題ないので「平成○○年の私の誕生日」「還暦の日」などという記載でも構いません。

ただし、「○月吉日」という記載は日付の特定を欠くものとして裁判では無効と判断されています。

押印も原則として遺言者自身がしなければなりません。印鑑については認印でも構いませんが、実印がより望ましいです。

また自筆証書遺言は、遺言の保管者がいる場合には保管者が、いない場合には遺言書を発見した相続人が相続の開始を知った後遅滞なく、家庭裁判所に『検認』を申し立てる必要があります。

検認は遺言の有効・無効を判断するものではなく、家庭裁判所が相続人に対して遺言の存在を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などを確認してあとから偽造されたり変造されたりすることを防ぐためのものです。検認を経ないで遺言を執行した場合は5万円以下の過料が科されます。
もし遺言書が封印されている場合は、家庭裁判所で相続人またはその代理人の立会いのもとに開封しなければなりません。違反すると5万円以下の過料が科されます。

少し長くなりましたので、続きはまた後編で。

 

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遺言書⑥ 〜変わる!遺言書〜

こんにちは、なら100年会館と同じ奈良市三条宮前町にあります行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

先日、11月11日(日)に平成30年度の行政書士試験が実施されました。奈良の会場でもたくさんの方が試験を受けておられました。無事に受験を終えられた皆様、どうもお疲れ様でした。

自分が行政書士試験の勉強をしていた頃に一番苦労したのは何だったかを思い出してみると、それは「法律がどんどん変わってしまう」という事でした。

立法府である国会は、法律を制定することが仕事ですから、毎年何らかの法律が改正されたり、新しく作られたりしています。

ですので、昨年までは正解だった答えが今年は引っ掛け問題の間違いの選択肢として出題される、なんていうことも試験ではよくあることなのです。

法律の勉強の難しさは、まさにここにあるのではないかと思います。

ですがこれは、行政書士になって実際に業務を行っていく際も同じことです。

法律は目まぐるしく変わりますが、それを追いかけて、常に最新の内容を把握しておくことが法律の専門家としての責務であり、また真価だと思います。

インターネットの普及により、手続きについて調べることは簡単になり、必要な書類の様式などもダウンロードして入手できるようになりましたので、ご自分で申請や届出をされる方がどんどん増えていく時代とはなりましたが、専門分野に関する豊富な知識を持ち、変化にも素早く対応していけるということが我々行政書士の強みであることに変わりはありません。

しかし恥ずかしながら、自分が行政書士になる前の法改正については、まだまだ知らないこともあるのが現状です。

つい最近も定款変更のご依頼を受けたお客様から、株式会社の監査役の任期がこれまで【1年(昭和26年)→2年(昭和49年改正)→3年(平成5年改正)→4年(平成14年改正)→原則4年で10年まで伸長可能(平成18年から現在まで)】という変遷を辿ってきたことを教えていただきました。

法律が成立した背景や、改正の経緯など、法律の歴史についても学ぶ姿勢を持ち続けていなければいけないと改めて考えさせられる出来事でした。

さて、遺言書シリーズも今回で第6回目になりましたが、まだ最も一般的な『普通方式』の遺言書についてはほとんど触れていません。じつは一番最初に説明してもおかしくないほど重要な内容なのですが、触れなかったのには理由があります。

今年の国会で、民法の相続に関する規定が改正され、昭和55年以来じつに約40年ぶりとなる内容の大幅な見直しが図られました。そして、普通方式の中の『自筆証書遺言』に関しては、特に大きな変更がありました。

この最新の法律に基づいてお話しすることができればと考え、これまで普通方式について書くことを見合わせていたのですが、改正法の施行までにはもうしばらく時間があるようですので、ひとまず現行法の内容をお話しした上で、また新しい情報を順次お伝えしていくことにしたいと思います。

では次回から詳しく説明してまいりますので、よろしくお願いいたします。

行政書士奥本雅史事務所
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遺言書⑤ 〜遺言書で何ができる?〜

こんにちは、相続手続きと遺言書作成専門の行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

遺言書は、『書いておけばなんでもその通りになる』というものではありません。

今回のテーマは『遺言書で何ができるのか』についてです。

遺言書に書かれている内容で法的な拘束力を持つ事項は『法定遺言事項』と呼ばれます。

法定遺言事項は民法などの法律で、おおよそ以下のような事項が規定されています。

①相続に関する事項
・遺産分割方法の指定、又は指定の委託(民法908条)
→これが遺言書に書かれる最も一般的な内容ではないかと思います。遺産分割方法の指定とはつまり「財産の分け方を定める」ということです。
例えば「不動産は妻に、預金は娘に相続させる」といった形で指定する場合や、代償分割や換価分割(詳しくは~相続⑥~で)など分割の方法を定める場合などがあります。
そして指定の委託とは「特定の第三者に、財産の分け方を定めることを委ねる」ということです。

・相続分の指定、又は指定の委託(民法902条)
→相続分の指定とは『法定相続分とは異なる割合で相続させたい』場合に、その割合を定めることです。例えば「妻、長男、次男にそれぞれ3分の1ずつ財産を相続させる」
というような場合です。指定の委託とは「特定の第三者に、相続分を定めることを委ねる」ということです。

・特別受益者の相続分に関する指定(民法903条)
→特別受益(詳しくは〜相続⑦〜で)を受けた相続人について、特別受益の持ち戻しを免除したい場合などにその旨を記載します。

・遺産分割の禁止(民法908条)
→(相続の開始から5年以内に限り)遺産の分割を禁止することができます。

・推定相続人の廃除と取り消し(民法893条・894条)
→被相続人に虐待を行った場合や重大な侮辱を加えた場合、または推定相続人に著しい非行があった場合には、家庭裁判所に申し立てその推定相続人を相続人から『廃除』することができます。これは生前行為でもすることができますが、遺言により廃除をすることもできますし、逆に廃除を取り消すこともできます。

・共同相続人間の担保責任の定め(民法914条)
→相続した財産に問題(相続した建物が壊れていたなど)があったために損害を被った相続人がいる場合には、各相続人は相続分に応じて保証しなければなりません(担保責任を負う)。しかし遺言によって、例えば資力の少ない相続人の担保責任を免除するということを定めることもできます。

・遺贈の減殺方法の指定(民法1034条)
→遺留分減殺請求がなされた場合に、各遺贈に対してどの順番で減殺をするか順番を指定することができます。

②財産の処分に関する事項
・包括遺贈、及び特定遺贈(民法964条)
→包括遺贈は財産の『割合』を指定して贈ることです(”全財産の4分の1を○○に与える”など)。特定遺贈とは特定の財産(例えば土地などの不動産など)を特定の人に贈ることです。

・一般財団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条)
→遺言により一般財団法人を設立することができます。(遺言によらず、生前に設立することも可能です。)

・信託の設定(信託法3条)
→遺言により、信託銀行等に財産を託し、被相続人の目的を実現する(例えば、残された妻に毎月20万円ずつ給付するなど)ことができます。(遺言によらず、生前に設定することも可能です。)

③身分に関する事項
・認知(民法781条)
→婚姻関係にない者との間に生まれた子を遺言で認知することができます。(遺言によらず、生前に認知することも可能です。)

・未成年後見人の指定、未成年後見監督人の指定(民法839条)
→未成年者の親権を行う者は、その者が死亡すれば他に親権者がいなくなる場合に限り、遺言により未成年後見人を指定することができます。
また未成年後見人を指定できる者は、その未成年後見人を監督する未成年後見監督人を遺言により指定することができます。

④遺言執行に関する事項
・遺言執行者の指定、又は指定の委託(民法1006条)
→遺言書の内容を執行する遺言執行者を指定することができます。またその指定を第三者に委ねることも可能です。

⑤その他の事項
・祭祀承継者の指定(民法897条)
→祭祀財産(墓地、墓石、仏壇、仏具等)を承継し、祭祀を主宰する者を指定することができます。(遺言によらず、生前に指定することも可能です。)

・保険金受取人の指定、又は変更(保険法44条・73条)
→保険金の受取人の指定や変更を遺言で行うことができます。(遺言によらず、生前に指定または変更することも可能です。)

これ以外の事項、例えば葬儀の方法の希望、散骨や埋葬方法の希望などは、遺言書に記載したとしても法的拘束力がありません。
法定遺言事項以外の事項は『付言事項(ふげんじこう)』と呼ばれます。

付言事項にはたしかに強制力はありません。ですが、自分の願いを家族に伝えるために遺言書に付言事項を記載しておかれることは非常に大切だと思います。

また、法定相続分以外の分け方をする場合には、相続人の間で不公平感が生まれるのを防ぐために「何故、その分け方にするのか」という思いの部分を記すことも大事です。

遺言書作成で分からないことがありましたら、お気軽に当事務所までお問い合わせください。

 

行政書士奥本雅史事務所
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