遺言書④ ~死ぬ前に書くもの?〜

こんにちは、相続手続きと遺言書作成専門の行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

遺言書は死ぬ前に書くもの、であることは間違いありません。

でも『死ぬ前=死の直前のこと』かというと、そうである場合とそうで無い場合があります。
今回は遺言の【方式】についてのお話です。

死ぬ直前に書く、と聞くと”遺書”をイメージされるかもしれません。では遺書と遺言書はどのように違うのでしょうか?

遺書は、例えば自分が死を覚悟したとき、これまでの思いを綴ったり、家族や友人に宛てたメッセージなどを記したもので、あくまで私信といえます。

一方、遺言書は民法という法律によって、書き方や作成の方法、遺言で実現できる内容などが細かく定められている法的な文書なのです。

遺書には法的な効力は一切ありませんが、遺言は遺言者の最終意思を尊重し実現するための制度ですので、遺言書に書かれた内容には法的な効力があります。

遺書に「誰々に財産を譲る」と書いてあったとしても、それは単なる本人の希望に過ぎずその通りに財産を処分する必要はありませんが、遺言書に書かれていた場合はその意思通りに財産処分が実現されます。(前回お話ししたように相続人の遺留分を侵害しない範囲で、ということになりますが)

このように遺書であればノートに走り書きで書いても、音声で録音しても、動画に撮るのもまったくの自由ですが、遺言書は民法で定められた方式で書くことが必要です。

民法が定める遺言書の方式には【特別方式】と【普通方式】という二つの方式があります。

普通方式というのは死期が近い遠いに関わらず将来の備えとして作成するものですので、いつでも作成することができます。

特別方式というのは普通方式で遺言書を作成することができない、特別の場合に認められているもので、死の直前に書くというイメージに近いと言えるでしょう。
特別方式で遺言書を作成することが認められるのは以下の4つの場合です。

(1)死亡危急の場合(民法 976条)
病気などで死亡の危急に迫った者が遺言をする場合は、証人が3人以上立会い、そのうちの1人に遺言者が遺言の趣旨を口頭で述べ、その証人が筆記した後に遺言者と他の証人に内容を読み聞かせ、または閲覧させ、各証人がその筆記が正確なことを承認して署名捺印をすることで成立する。(成立後20日以内に家庭裁判所の確認を受けなければ効力を生じない。)

(2)伝染病で隔離されている場合(民法 977条)
伝染病のため行政処分により隔離された場所にいる場合は、警察官1人と証人1人以上の立会いによって遺言書を作成することができる。なお遺言者、筆記者、立会人、証人は、各自遺言書に署名捺印しなければならない。

(3)在船者の場合(民法 978条)
航海中の船の中にいる場合は、船長または事務員1人と証人2人以上の立会いによって遺言書を作成することができる。なお遺言者、筆記者、立会人、証人は、各自遺言書に署名捺印しなければならない。

(4)船舶遭難の場合(民法 979条)
船舶が遭難し死の危険が迫った場合は、証人2人以上の立会いによって口頭で遺言をすることができる。船舶遭難の状況がやんだ後(証人が生還したとき)に証人が内容を筆記し、署名捺印し、かつ証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に請求して確認を受けることによって効力が発生する。(この方式は、航空機の遭難の場合にも準用される。)

(※ 特別方式の遺言は普通方式で遺言書を作成することが出来ない場合の臨時的なものですので、遺言者が普通方式で遺言書を作成できるようになった時から6ヶ月間生きていたときは失効します。)

このような状況は頻繁に起こるというものではありませんが、遺言書とはこんな緊急の場合でも方式を守ることが厳格に求められているということはお分かりいただけたかと思います。

遺書と遺言書の違いを知ることで、『遺言書なんて縁起が悪い』という印象が変わり『将来の為に必要なもの』と思ってくだされば幸いです。

 

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遺言書③ ~遺留分について考える~

こんにちは、相続手続きと遺言書作成専門の行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

さて今回は、”遺留分(いりゅうぶん)”についてお話ししたいと思います。

亡くなられた方がもしも遺言書を作成していなかった場合、相続をすることになった人(相続人)は、亡くなった方(相続される側なので被相続人と言います)の財産から、法定相続分の財産をそれぞれ相続する権利を持つことになります。(法定相続分に関しては『相続⑥』をご覧ください)

しかし遺言書で財産の分け方を指定すれば、被相続人の意思が尊重され、法定相続分とは違う割合で分けることができます。

ですがもしも被相続人が『全財産を愛人の○○○○に譲る』という内容の遺言書を遺して亡くなられ、この遺言の通りに財産の処分が行われたとしたら、後に遺された家族の生活がおびやかされてしまう可能性があります。そこで民法では、相続人が一定の割合の相続財産を”遺留分”として確保できることと定めています。

ではどれだけの割合が遺留分となるのでしょうか。

まず相続財産(※)の2分の1が遺留分全体の額となります。(ただし相続人が直系尊属(父母または祖父母)のみである場合は3分の1。また相続人のうち、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。)

その遺留分全体に、各相続人の法定相続分の率をかけたものがそれぞれの相続人の遺留分となります。

それでは私の場合を例に考えてみます。

私の家族は父と母と弟で、祖父母はすでに他界しています。また、父は飲食店を経営しています。
財産は、店舗兼住宅の土地と建物、店舗の設備等をあわせて1500万円、現金資産が300万円の合計1800万円とします。
父が亡くなった場合の相続人は母・弟・私の三人です。

もしも遺言書を書かずに父が他界した場合には、法定相続分通りの

母 900万円(2分の1)
弟 450万円(4分の1)
私 450万円(4分の1)

という財産をそれぞれ取得する権利が発生します。

しかしもし私が、父の事業を引き継ぐことになった場合、店舗物件は私が相続しなければ事業を続けられません。

ここで現金資産が豊富にあれば、母と弟で分け合ってもらえるのですが、現金資産は300万円しかありませんので、母と弟には私から足りない分の現金を支払うという『代償分割』をすることなどが考えられます。

代償金の額は、

900万円(母)+450万円(弟)=1350万円

となり、

1350万円一300万円(現金資産)=1050万円

で、1050万円が不足しています。これはポンと出せるような金額ではありません。

父の事業をスムーズに引き継いでいくためには、例えば受取人を私とした死亡保険金1000万円の生命保険に父に入っておいてもらい、その補填に当てるなどの事前対策も必要でしょう。

また事前対策という点では、遺言書も非常に有効です。

遺言書であれば、店舗物件を私に、母に現金200万円、弟に現金100万円をそれぞれ相続させるという指定をすることもできます。
ただここで問題になってくるのが遺留分です。遺言書で指定された財産の取り分が遺留分より少ない額だった場合、各相続人は遺留分を請求する権利『遺留分減殺請求権(いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん)』を行使することができます。

この例では、財産の2分の1の900万円が遺留分全体の額となり、それに法定相続分の率をかけた

母 450万円
弟 225万円
私 225万円

がそれぞれの遺留分となります。

この場合不足額は、

450万円(母)+225万円(弟)一300万円(現金資産)=375万円

となります。

ちなみに遺留分減殺請求権を行使するかどうかは相続人の自由です。

ですが不足分の手当てについては、やはり事前に考えておかないといけません。

このように遺言書で相続財産の分け方を指定する場合には、各相続人の遺留分以上をそれぞれに確保させることを考えなければ、後々争いを引き起こすことにもなりかねず、せっかく作った遺言書もムダになってしまう可能性があります。

相続対策のために必要なのは、まず相続についての正しい知識を持つこと、そして家族でよく話し合っておくことです。

相続について何か気にかかることがありましたら当事務所までお気軽にご相談ください。

(※)遺留分の場合、相続開始前の1年間に贈与された財産も含めて計算する

 

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遺言書② 〜遺言書を書いたほうがいい人?~

こんにちは、なら100年会館と同じ奈良市三条宮前町にあります行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

今回は、『こういう方は、できるだけ早めに遺言書を書いておいたほうが良い』という3つのパターンについてお話しをいたします。

さて、そもそも遺言とはなんのためにするものでしょうか?

遺言は、自分が亡くなった後の自分の財産の処分の仕方を自分で決めるためにするものです。

(これ以外にも遺言で出来ることはあるのですが、それについてはまた機会を改めて。)

もしも亡くなった方が遺言書を書いていなかった場合には、相続人全員によって遺産分割協議が行われ、話し合いによって財産の分け方が決められますので、亡くなった方が分け方を決めることは出来ません。

しかし、遺言書を遺していれば、亡くなった方のご意思は尊重され、分け方を指定することができます。遺言書はこのように強い効力を持つため民法という法律で細かく方式が定められており、法に則って作成されていない遺言書は無効となってしまいます。

それではこれらを踏まえた上で、できるだけ早めに遺言書を書いておいた方が良い3つのパターンをご紹介しましょう。

①相続人の関係が複雑になりそうな方(子どもがいて離婚した後に再婚をされている方、または認知した子どもや養子縁組した子どもがいる方など)

②法定相続分ではない割合で財産を分けたい方(家業を継いでくれる長男に全財産を相続させたい、主な財産が自宅しかなくそれを特定の子どもに譲りたい場合など)

③相続人以外に財産を譲りたい方(自分の世話をしてくれた甥や姪や孫・内縁の妻などに財産を譲りたい、団体等へ寄付をしたい場合など)

まず①についてです。配偶者は常に相続人となりますが、離婚した場合は当然相続人にはなりません。一方、子どもはたとえ離婚した場合でも相続人となる権利があります。これは認知した子どもや養子として迎えた子どもでも同じです。また養子に出した場合は、相続人としての権利は失いません。(※ただし特別養子縁組の場合は相続人とはなりません。)
親子の関係は生涯続くということです。

離婚しただけならばそれほど複雑では無いのですが、再婚した際、もし新しい配偶者にも離婚歴がありなおかつ別れた相手が引き取っている子どもがいる場合などには、相続時にそれまで会ったこともない者同士で遺産分割についての話し合いをしなければならない、ということが起こり得ます。
遺言で自分の意思を示しておく事で、揉め事を回避出来る可能性もあります。

つぎに②ですが、先ほどもお話しした通り、遺言書が無ければ遺産分割協議によって財産は分けられます。
例のように家業を継いでくれる長男に全財産を相続させたい場合などは遺言書にその旨を記載することで遺産分割協議を行うことなく財産を承継することができます。
ただし、他の子ども達との間に不公平感が生まれることで揉めることも考えられます。こういう場合のために、遺言書にはご自分の思いを記載することもできます。(付言事項(ふげんじこう)と言います。これはまた別の回で。)

また財産が現金などのように簡単に分けられる物である場合は良いのですが、現金資産があまり無く自宅などの不動産しか無いという場合は分けるのが難しくなります。そこで例えば子どものうちの1人に自宅を相続させたい場合など、法定相続分とは違う割合で分けたいというケースも遺言書が必要です。

最後に③のように、相続人では無い方、例えば甥や姪や孫などに財産を譲りたい場合も、遺言書の無い一般的な相続手続きでは成し得ません。内縁の妻のように入籍していない配偶者も通常相続人にはなれないため、財産を譲るには遺言書があることが望ましいです。
また、慈善団体や財団等へ寄付をしたい場合なども、遺言書に記載しておけばご自分の意思通りに財産の使い道を決めることができます。

このようなパターンに当てはまる方はぜひ遺言書を書かれることをお勧めいたします。

ここまで説明を聞いて「ああ、そうか。遺言書に書いておけば財産を思い通りに分けることが出来るのか。」と思われたかもしれませんが、各相続人には『遺留分』というものがあります。

次回はこの遺留分についてお話しをします。

 

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〜遺言書① 今さら聞けない遺言書〜

こんにちは、相続手続きと遺言書作成専門の行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

今回からは、遺言書についてお話しをしていきたいと思います。

「遺言書」と聞くと、みなさんはどんなイメージを思い浮かべられますか?

「死ぬ前に書くもの」
「自分が死んだあと遺される家族に宛てて書くもの」
「自分の思いを書き残すもの」
「財産の分け方について書いておくもの」

こんなところでしょうか?
たしかに、このどれもが間違いではありません。

ですが、もう少し詳しく知っていくと、遺言書が誰にとっても必要なもので、いかに大切なものかが分かっていただけると思います。

 

さて、「誰にとっても必要」と書きましたが、本当に自分にも必要なのかな、と疑問に思う方がいらっしゃるかもしれません。

でも『人間、必ずいつかは死ぬ』ということが変えられない以上、誰にでも必要性はあると言えます。

実際のデータで見てみましょう。日本公証人連合会が発表している遺言公正証書の1年間の作成件数の数字を見ると、年々増加の一途を辿っていることが分かります。
10年前の平成20年には年間76,436件だったものが、平成29年には110,191件と約1.5倍にまで増えています。

そして、相続に関する法律においても、遺言書の重要性はさらに増していく方向で改正の議論が進んでいるため、今後もますます作成件数は増えていくものと思われます。
『遺言書は一人に一つずつ』という時代がいずれ訪れるかもしれません。

 

また、遺言書が必要なのはわかっているけど「自分には、まだまだ早いだろう」と思っている方もおられるでしょう。
では遺言書を作成する時期、というのはいつがいいのでしょう。

遺言書は15歳から作成することができます。
そして当然、生きている間にしか作成できません。
つまり遺言書を作成できる期間は、15歳から亡くなるまでの間ということになります。

ちなみに私は今46歳ですが、もちろん遺言書を作っています。
人間、明日どうなっているかは分からないですから、備えは大切です。

とは言え、いざ遺言書となると、なかなか書くきっかけが分からないかとも思います。
これは遺言書を書く最も一般的な理由であろう「財産の分け方について」記す場合ですが、一つの目安として「自分の財産が概ね確定した時」に書くのが良いと思います。

例えば、定年退職をしたタイミング。退職金で住宅ローンもなども完済し、自分の財産がもうあまり大きく変動することがないからです。

あまり若いうちに作成しても、今後どれだけ財産が増減するかが不確定ですし、状況が変化する幅も大きく遺言書の内容が実際の状況と合わなくなるかもしれません。

私個人のケースで考えてみると、まだ両親が健在であり、自分が相続で譲り受ける財産も確定していないので、数年後には新たに作成しなおさなければならない可能性があります。

このように遺言書を作成するのには、適切な時期というものがあります。

しかし、こういう場合はできるだけ早めに書いておくべきという3つのパターンも存在します。

次回はこの3つのパターンについてお話し致します。

 

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