どんな人が後見人になるの?

こんにちは。行政書士・社会福祉士よしかわ事務所の吉川昇平です。

前回に引き続き「法定後見」についてお伝えしていきます。

今回は“どんな人が後見人になっているのか?”というテーマで進めていきますね。

認知症などで判断能力が低下してしまった場合、法定後見制度を利用すれば成年後見人、保佐人及び補助人(以下成年後見人等)が財産管理や身の回りの生活に必要な判断などを支援してくれることをお伝えしました。

ここで気になってくるのが、どんな人が成年後見人等になっているのだろう?ということですよね。

もし、自分や親族が法定後見制度を利用することになったら誰が成年後見人等になるのか、気になります。

最高裁判所事務総局家庭局が出している成年後見関係事件の概況(平成29年3月)の中には、成年後見人等と本人の関係についてのデータがあります。

まずは、親族(配偶者、親、子、兄妹姉妹及び※その他の親族)が成年後見人等に選任されたものが全体の約28.1%となっています。この数は毎年減ってきています。親族の成年後見人等は3割以下というのは少し意外に思われるかもしれません。(※その他の親族とは、配偶者、親、子及び兄妹姉妹を除く、四親等内の親族)

一方で、親族以外の第三者が成年後見人等に選任されたものは全体の71.9%です。

この数は年々増加しています。

件数の多い順から見てみると、司法書士、弁護士、社会福祉士の順になっています。

次いで、社会福祉協議会、行政書士です。

その他、市民後見人やNPO法人なども今後増えてくる可能性があります。

法定後見の場合は家庭裁判所が成年後見人等を選任する際、財産の状況、本人の状態など総合的に考慮します。申立て手続きの時に後見人候補者を記載できますが、必ずしも希望した人が後見人に選任されるとは限りません。この点が法定後見の特徴です。近年は、ご本人の権利をまもるために必要な知識や専門性を持った専門家が選ばれるようになってきました。

親族以外の第三者が増えているということは、つまり家族であっても成年後見人等に選ばれないこともあるということです。

その理由の一つとして、親族後見人等の財産の使い込みがあります。制度の理解不足から本人の財産を勝手に使ってしまうことがあるのですね。いくら家族でも本人の財産を勝手に使ってしまうのは財産侵害になります。

実は財産侵害等の不正報告件数の9割以上が専門職以外というデータ(内閣府成年後見制度利用促進委員会事務局)も出ています。最近では、専門職後見の体制が整ってきたこともあり、専門職が選任される傾向になっています。また、親族が成年後見人等に選ばれた場合でも、後見監督人、保佐監督人、補助監督人というチェックする人がつけられるケースも増えています。

その他、親族を後見人候補者として申立てをしても、親族間での意見が対立していたり、候補者の体調がすぐれないなど、状況を総合的に考慮したうえで家庭裁判所が判断しています。

 

では、成年後見人等になるために何か資格が必要なのでしょうか。

結論からいうと、特別な資格は必要ありません。

ただし、「欠格事由」といって、後見人等になれない人が法律で次のように定められています。

  1. 未成年者
  2. 成年後見人等を解任された人
  3. 破産者で復権していない人
  4. 本人に対して訴訟をしたことがある人、その配偶者または親子
  5. 行方不明である人

以上のような事情も含めて本人を支援する成年後見人等を家庭裁判所が選んでいます。

 

最後に、成年後見人等になるために特別な資格は必要ないとお伝えしましたが、現在、成年後見人等を受任している専門職はそれぞれの専門職団体に所属したり、研修を受けて受任できる準備や体制を整えています。不正を防止し、適正に後見業務を遂行できるよう、様々な取り組みが続けられています。

 

次回は

法定後見を利用する際の、申立てから後見人が決まるまでの流れ、そして、かかる費用についてお伝えしていきたいと思います。

 

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法定後見を利用するのはどんな場合?

こんにちは。

行政書士・社会福祉士よしかわ事務所の吉川昇平です。

前回のコラムでは、成年後見制度の「法定後見」と「任意後見」についてお伝えしました。

「法定後見」は、認知症などによって判断能力が低下してしまったときに、家庭裁判所が決めた後見人等が支援してくれます。
「任意後見」は、判断能力が低下する前に、将来に備えて自分で後見人を選ぶ“転ばぬ先の杖”であることを説明しました。

今回は、「法定後見」について、どんな場合に利用することになるのかについて見ていきたいと思います。

 

~どんな場合に法定後見を利用するのか~

最高裁判所事務総局家庭局が平成 29 年 3 月に出した、成年後見関係事件の概況のなかに、「申立ての動機について」という項目があります。

そこには、
「主な申立ての動機としては、預貯金等の管理・解約が多く、次いで、身上監護となっている。」と記載されています。

申立てのきっかけとなる一番の理由は預貯金等の管理・解約です。
例えば親が認知症になり、病院や施設の入居金など、まとまった金額を親自身の口座から引き出そうとすると、本人確認や後見制度の利用を求められます。

たとえ家族であっても、お金や不動産などの財産は個人のものです。勝手に本人以外の人がお金を引き出したり、不動産を売却したりはできません。判断能力が低下した人の権利を護るため、このような決まりになっています。

 

次の“身上監護”とは普段はあまり使うことがない言葉ですが、具体的に言うと、判断能力が低下して身の回りのことを自分で決めることができにくくなった人の医療や介護、または住まいや買い物など、様々なことに関して代理して契約したり決めたりすることです。ご本人の生活環境を整え、安心して暮らせるように手続きをします。

よく間違えられるのですが、後見人は仕事として直接食事や入浴などの介護をするわけではありません。あくまでも、判断能力が低下した方の意思決定を支援し代理することが役割ですから、病院の費用を支払ったり、介護施設に入居する時の契約を代理したり介護ヘルパーさんが必要であれば手配し契約します。

ただし、家族が後見人になった場合は、家族としての立場で直接介護をすることはあります。

また、病院との治療契約や支払いは後見人の仕事ですが、手術の同意や、入院時の身元保証人は後見人としてはできません。手術は身体を傷つける行為(医的侵襲行為)であるため、本人以外にその判断はできないとされています。

現実的には、病院などでは後見人に対して手術の同意や、入院時の身元保証人へのサインを求められます。しかし、後見人としてはできないことを説明し、手術が必要な場合は、主治医の専門職としての判断にゆだねることになります。

ただし、この場合も後見人が家族の場合は、家族の立場で同意書等のサインはできます。

これらのほか、法定後見を利用することになる場面として、遺産相続があります。遺言がない場合に、遺産分割協議をしなくてはなりませんが、判断能力が低下した人は協議の内容が理解できずに不利益を被る可能性があります。したがって、後見人が本人の利益を護るために代わりに遺産分割協議に対応することになります。

そして、最近は一人暮らしのお年寄りが詐欺被害に遭うケースも増加しており、判断能力が低下してだまされるおそれがある場合は、後見人をつけて詐欺被害を防止しています。

法定後見を利用するきっかけは色々ありますが、いずれにしても後見人は、ご本人の気持ちを汲み取り、本人にとって望ましい生活が実現できるように最善の選択をしていきます。

そのために、ご本人の大事な所有財産を代わりに管理しながら、安心して暮らせるように生活環境を整えること、これが法定後見における後見人等の重要な役割となっています。

 

次回は、どんな人が後見人になっているのか?後見人になるためには何か要件があるのか?についてお伝えしていきます。

 

 

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知って安心!成年後見制度

こんにちは。行政書士・社会福祉士よしかわ事務所の吉川昇平です。

今回も、引き続き成年後見制度についてお伝えします。

前回のコラムでは、認知症などで判断能力が低下した場合、日常生活に必要な手続きや財産管理など様々な問題が起こりますが、成年後見制度を利用することでご本人の生活や権利を守ることができることをお伝えしました。

 

 

この成年後見制度には、大きく分けて2つの制度があります。今回はこの2つの制度についてお伝えしていきます。

1つ目は「法定後見」です。

現在、認知症などで判断能力が低下している人を支援する制度になります。ご本人の身近な家族などが家庭裁判所に申立てをし、家庭裁判所がご本人の状況を総合的に勘案して「審判」という形で後見人が決定されます。

そして、判断能力が低下した方の生活や財産を守るために後見人には、大きく3つの権限が民法に規定されています。大まかにいうと、

① 「代理権」本人に代わって契約などの行為をする権限。

② 「取消権」本人がした契約などが不利益になると判断した場合に取り消すことができる。

③ 「同意権」後見人等の同意を得ずにした本人の契約などの法律行為は取り消すことができる。同意をする権限。

ただし、判断能力の低下の度合いは人それぞれ異なります。したがって、法定後見では判断能力の度合いを下記の通り成年後見・保佐・補助の3段階に分けています。

【成年後見】

判断能力がほとんどなく、財産管理や生活の組み立てが、ひとりでは困難な場合

【保佐】

判断能力が低下し、日常の買い物などはできても銀行取引や不動産売買など重要な行為にサポートが必要な場合

【補助】

判断能力が残っていて、助言などのサポートをうけながらであれば重要な行為についても意思表示や判断ができる場合

 

 

そして、後見人の呼び名も3つの類型に応じて「成年後見人」「保佐人」「補助人」と呼ばれ、与えられる法的権限の範囲も差があります。

例えば、判断能力がほとんどない成年後見では、より大きな範囲の権限が与えられますが、判断能力が残っている補助の場合は、成年後見に比べて必要最小限の範囲で権限が与えられます。

なぜかというと、判断能力の度合いに関係なく一律に後見人等に権限を与えてしまうと、まだできることがある人の権利を奪うことにつながるためです。

したがって、成年後見を利用するにあたっては本人の判断能力に関する客観的な証明と慎重な手続きが必要とされます。

後見人に与えられる権限の範囲は本人の判断能力に応じて成年後見、保佐、補助を家庭裁判所が決定します。

成年後見制度は判断能力が低下した人を守る制度であると同時に、ご本人の自己決定の尊重を理念としています。あくまでもご本人の人生は自分で決めることが原則で、できる限りご本人の意思を引き出して尊重することが大切にされています。

 

 

2つ目は「任意後見」です。

現在はまだ判断能力がある人が、将来認知症などになった場合に備えて、あらかじめ自分で後見人を選び、頼みたいことを決めておくことができます。

この手続きは、頼みたい相手との「契約」という形になり、公証役場で契約します。契約が成立すると、相手は任意後見受任者となり、将来認知症などで判断能力が低下した時に家庭裁判所で手続きを経て、任意後見人として仕事をしてくれることになります。その際は家庭裁判所が任意後見監督人を選び、任意後見人の仕事に不正がないようにチェックする仕組みになっています。

任意後見は、判断能力の低下に対し事前に備えることができる“転ばぬ先の杖”であり、自分で後見人を選べることが特徴です。

 

法定後見と任意後見、利用する際はそれぞれの特徴を踏まえておくことが大切ですね。

イメージとしては、法定後見は大切な家族や身近な親族が認知症などで判断能力が低下した場合に、そして任意後見は、自分自身が、将来判断能力が低下した場合に備える制度といえるのではないでしょうか。

 

もし、成年後見制度の利用を検討する状況になった場合は、まず身近な相談窓口に行って相談しましょう。地域における専門相談窓口として、「地域包括支援センター」があります。また、各市町村には社会福祉協議会が設置されていて、成年後見制度の相談も受け付けてくれます。その他にも、法テラスや弁護士・司法書士・社会福祉士・行政書士などの専門団体でも相談を受けています。

 

今回は法定後見と任意後見の概要をご説明しました。次回のコラムは、法定後見の内容を詳しく説明していきたいと思います。

 

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老後の不安を安心に変えるために②

行政書士 吉川昇平

こんにちは、行政書士・社会福祉士よしかわ事務所の吉川昇平です。

前回のコラムで、認知症になっても自分らしく生きていくための備えとして成年後見制度に触れました。

今回は、この成年後見制度の概要をお伝えしたいと思います。

成年後見制度とは・・・

認知症などの理由で判断能力が十分でない人の財産管理や身上監護を、ご本人に代わって法的に権限を与えられた後見人等が行い、安心して生活が送れるようにご本人の保護や支援を行う制度です。

具体的に言うと、私たちは普段の生活の中で、衣食住をはじめ、趣味や健康などについてあらゆることを自分で選択し、決めながら生きています。その積み重ねが現在の自分自身であり、自分らしく生きるということは、自分で決めながら生きるということでもあります。

しかし、認知症などで判断能力が低下し、今までできたことができなくなった場合、本人に代わって本人の最善の利益を考え、選び、決めてくれる人が必要になります。また、自分の財産などの権利を侵害されないように守る必要もあります。そのために、法律的に権限を与え、本人を代理できる立場の人を選びサポートをするのが成年後見制度です。

私たちが生きていくためには、色々と必要な手続きがあります。判断能力が低下した場合の現実的な問題として、例えば銀行でのお金の引き出し、定期預金の解約や不動産の売却、また、病院やヘルパーさんなど介護サービス事業者との契約など、これらの手続きは法律的な義務や権利が生じる「法律行為」とよばれ、本来であれば本人と相手方が交わすものです。しかし、判断能力が低下すると契約自体が難しくなります。そして、だまされて無理な契約を交わされることもあり得ます。

成年後見制度では後見人と呼ばれる人が、このような問題から本人の権利を守り、日常生活が安心して送れるように責任を持ってサポートしてくれます。(詳細は次回以降に詳しく説明します)

人生の終盤に向かうにつれて、自分以外の誰かの助けが必要になる場面はどうしても出てきます。現状は、子どもなどの家族に頼むケースも多いですが、家族と離れて暮らしている、家族に負担をかけたくないと考える方も増えていますし、配偶者や子どもがいないという場合も増えています。

自分の親に何かあった時に誰がサポートするのか?自分自身に何かあった時に誰に助けを頼むのか・・・考えたことありますか?私は、自分の将来や自分の親のことを考えて将来に備えています。もちろん成年後見制度を利用する場面があるかもしれませんし、ないかもしれません。ただ、知っておくだけで安心感があります。

2025年には認知症の患者が700万人を突破して、65歳以上の5人に1人が認知症になるといわれている時代、この認知症に関することはとても身近な問題です。現在、日本中の各地域で、認知症になっても安心して暮らせるまちづくりが進められています。認知症に関する正しい知識を持ってお互いに支えあう社会づくりが求められています。その中において、成年後見制度も認知症の方の権利を守る制度として注目されています。

さいごに

成年後見制度は、大きく分けて2つの種類があります。一つは「法定後見」そしてもう一つが「任意後見」です。それぞれに特徴があり、状況によって適切な制度を利用することが大切です。次回はこの2つの制度について具体的にお伝えしたいと思います。

老後の不安を安心に変えるために、まずできることとして、“制度を知ること”が大切ですね。老後に備える選択肢の一つとして成年後見制度のことを知っていただけたらと思います。

 

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老後の不安を安心に変えるために①

行政書士 吉川昇平

はじめまして、行政書士・社会福祉士よしかわ事務所の吉川昇平です。

私は前職で介護福祉の仕事を16年経験しました。この経験をもとに福祉系行政書士として活動しています。どうぞよろしくお願いいたします。

私のコラムでは主に高齢者福祉に関するテーマを取り上げたいと思います。

現在、日本は世界トップクラスの長寿国になりました。男女とも平均寿命は80歳をこえています。長生きできることは嬉しいことですよね。しかし、長生きは喜ばしい反面、気になることもあります。

例えば、健康のことです。高齢になると、どうしても体力の衰えや病気など、健康に問題が生じがちです。特に認知症については、多くの人が関心を持ち、また不安に思っています。

厚生労働省の推計では2025年には認知症患者は700万人を突破すると言われています。これは65歳以上の5人に1人が認知症になるということで、誰にとっても決して他人事ではありません。

認知症になると、記憶力や判断力が低下して、日常生活に支障が出てきます。そして、自分の思いを上手く表現したり伝えることが難しくなります。また、自分の大切な財産を管理したり守ることが難しくなります。

もしも、自分が認知症になってしまったら・・・

・どんな介護を受けたい?
・どこで介護してほしい?
・延命処置はどうしたい?
・家族に迷惑かけないだろうか?
・誰に財産を管理してもらうのか?
・認知症になっても自分らしく生きることができるだろうか?

色んなことが気になりますよね。

認知症により記憶力や判断力が衰えてしまうと、当たり前にやってきた生活や身近な手続きが自分では出来にくくなります。自分のことを自分で決めることに支障が出てきます。そうすると、自分らしく生きていくために必要な権利が侵害されてしまう恐れが高くなります。

このような場合、認知症などにより衰えた判断力を補い、意思決定を支える成年後見制度があります。(次回以降のコラムで詳しく説明します。)

私たち行政書士も成年後見制度において、判断力が不十分な方の権利を護る専門家として成年後見人になることができます。

長寿社会において、自分らしく人生をまっとうするためには、気になることに対して備えることが大切だと思います。
不安や心配事ばかり考え、頭を悩ませて生きていくのはつらいことです。せっかく長生きするのであれば、楽しく、自分らしく生きたいですよね。そのために長生きのリスクにしっかり備えましょう。

次回より、老後の不安を安心に変えるために『今できること』・『困った時の対処法』などをご紹介していきたいと思います。

 

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