遺言書③ ~遺留分について考える~

こんにちは、相続手続きと遺言書作成専門の行政書士奥本雅史事務所の奥本です。

さて今回は、”遺留分(いりゅうぶん)”についてお話ししたいと思います。

亡くなられた方がもしも遺言書を作成していなかった場合、相続をすることになった人(相続人)は、亡くなった方(相続される側なので被相続人と言います)の財産から、法定相続分の財産をそれぞれ相続する権利を持つことになります。(法定相続分に関しては『相続⑥』をご覧ください)

しかし遺言書で財産の分け方を指定すれば、被相続人の意思が尊重され、法定相続分とは違う割合で分けることができます。

ですがもしも被相続人が『全財産を愛人の○○○○に譲る』という内容の遺言書を遺して亡くなられ、この遺言の通りに財産の処分が行われたとしたら、後に遺された家族の生活がおびやかされてしまう可能性があります。そこで民法では、相続人が一定の割合の相続財産を”遺留分”として確保できることと定めています。

ではどれだけの割合が遺留分となるのでしょうか。

まず相続財産(※)の2分の1が遺留分全体の額となります。(ただし相続人が直系尊属(父母または祖父母)のみである場合は3分の1。また相続人のうち、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。)

その遺留分全体に、各相続人の法定相続分の率をかけたものがそれぞれの相続人の遺留分となります。

それでは私の場合を例に考えてみます。

私の家族は父と母と弟で、祖父母はすでに他界しています。また、父は飲食店を経営しています。
財産は、店舗兼住宅の土地と建物、店舗の設備等をあわせて1500万円、現金資産が300万円の合計1800万円とします。
父が亡くなった場合の相続人は母・弟・私の三人です。

もしも遺言書を書かずに父が他界した場合には、法定相続分通りの

母 900万円(2分の1)
弟 450万円(4分の1)
私 450万円(4分の1)

という財産をそれぞれ取得する権利が発生します。

しかしもし私が、父の事業を引き継ぐことになった場合、店舗物件は私が相続しなければ事業を続けられません。

ここで現金資産が豊富にあれば、母と弟で分け合ってもらえるのですが、現金資産は300万円しかありませんので、母と弟には私から足りない分の現金を支払うという『代償分割』をすることなどが考えられます。

代償金の額は、

900万円(母)+450万円(弟)=1350万円

となり、

1350万円一300万円(現金資産)=1050万円

で、1050万円が不足しています。これはポンと出せるような金額ではありません。

父の事業をスムーズに引き継いでいくためには、例えば受取人を私とした死亡保険金1000万円の生命保険に父に入っておいてもらい、その補填に当てるなどの事前対策も必要でしょう。

また事前対策という点では、遺言書も非常に有効です。

遺言書であれば、店舗物件を私に、母に現金200万円、弟に現金100万円をそれぞれ相続させるという指定をすることもできます。
ただここで問題になってくるのが遺留分です。遺言書で指定された財産の取り分が遺留分より少ない額だった場合、各相続人は遺留分を請求する権利『遺留分減殺請求権(いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん)』を行使することができます。

この例では、財産の2分の1の900万円が遺留分全体の額となり、それに法定相続分の率をかけた

母 450万円
弟 225万円
私 225万円

がそれぞれの遺留分となります。

この場合不足額は、

450万円(母)+225万円(弟)一300万円(現金資産)=375万円

となります。

ちなみに遺留分減殺請求権を行使するかどうかは相続人の自由です。

ですが不足分の手当てについては、やはり事前に考えておかないといけません。

このように遺言書で相続財産の分け方を指定する場合には、各相続人の遺留分以上をそれぞれに確保させることを考えなければ、後々争いを引き起こすことにもなりかねず、せっかく作った遺言書もムダになってしまう可能性があります。

相続対策のために必要なのは、まず相続についての正しい知識を持つこと、そして家族でよく話し合っておくことです。

相続について何か気にかかることがありましたら当事務所までお気軽にご相談ください。

(※)遺留分の場合、相続開始前の1年間に贈与された財産も含めて計算する

 

行政書士 奥本雅史事務所

http://okumoto.tribute-mj.net

 

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