行政書士 武村直治
はじめまして。 行政書士の武村です。
奈良県の高取町で開業しております。
よろしくお願い致します。
さて、数年前から注目され、建設業を語る上では外せない話題の1つとして「社会保険未加入問題」があります ( 社会保険に関しては行政書士の取扱業務ではないのですが…)
国交省が平成24年に「平成29年までの5年で建設業の社会保険加入率を100%にする」という目標を掲げた事に端を発し、様々な取り組みが進められてきました。
そして今年が目標最終年の平成29年…社会保険の未加入問題はどういう状況になっているのかを見ていきたいと思います。
…が、その前にそもそもなぜ国交省がそんな事を言い出したのでしょうか?
主な理由は2つあります
1.建設業界の健全な未来の為
2.企業間の競争の公平化の為
もう少し分かりやすく見ていきましょう。
1についてですが、現在、建設業界は「若者の建設業離れ」とでもいうような状況になってしまっています。
建設業の未来を支えるべき20?30代の若者の建設業界への就職率が低く、また離職率も高い…これはなかなか深刻な問題で近い将来には「建設工事の需要はあるのに人手不足で工事ができない」ような状況になりえるとも言われています。
ではどんな手を使っても人さえ集めればよいのか?というとそれは間違いです。
仕事というものは人さえいれば成り立つ訳ではありません。キャリアを積んだ技術者の経験や技術を次の世代に正しく継承していかなければ高いレベルを維持する事は困難です。
建設業も同じで、未経験の私が「明日から建設業者として仕事をしよう」と思ってもおそらく何も出来ません。
つまり若者の就職率が低く離職率も高い、という事は人手不足により工事が出来ないだけでなく、ひいては徐々に建設業界の衰退を招くという事につながります。
コレはマズい…という事で国も包括的な対策を打ち出します。
そしてその施策の一環として
「建設業者の社会保険加入の推進」に取り組んだのです。(包括的な対策についてはまた後日)
つまり建設業界は比較的社会保険に未加入な企業が多いため従業員の将来の安定性が低く、若者からすると「ならば建設業界への就職はやめておこう」となるワケです。
若者からすると将来の人生設計に不安がある業界よりは少しでも安定を望める業界に行こう、と考えるのも当然のことでしょう。
国としては建設業界のこういった状況を打破するために社会保険の加入率を上げるという手を打ったという事ですね。
そして2についてですが
これは単純な話しです。
従業員の健康保険や厚生年金などといった社会保険は事業主も約半分負担します (労災は全額負担)
この事情主負担分を法定福利費と言いますが、この負担がなかなか大きいのです。
とすると、社会保険に未加入の企業はそれに加入している企業に比べ従業員1人あたりのコストが下がり、結果的に公共工事などで安く入札でき競争上有利になってしまうという矛盾が生じてしまいます。
ですので全ての企業に社会保険に加入してもらい皆同じ土俵で公平に競争しようという事です。
だから100%の加入率を目指すのです。
この施策には国もかなり力を入れていて、様々な取り組みを行ってきました。
例えば社会保険未加入ならば、
・経営事項審査の減点措置の拡大により事実上公共工事の落札が不利になる
・下請けの場合、元請けからの発注が来ない可能性がある
・「特段の理由がない限り」そもそも現場に入場できない
など多大な影響があり、実質的に仕事をする事ができなくなるような流れになっています。
ではこのような取り組みの結果、5年間で社会保険の加入率はどうなったのでしょうか?
企業別
平成23年 (平成24年当時の最新データ)84%
→平成28年 (最新データ) 96%
労働者別
平成23年 (平成24年当時の最新データ)57%
→平成28年 (最新データ) 76%
(国交省ホームページ参照)
未だ100%には達していませんが大きな成果をあげています。
施策も最終段階に入り、今後もまだ上がり続ける事が予想されます。
業界全体としての将来を見据えたこの施策により建設業の人材不足に歯止めがかかる一因となり、また従業員の方もより安心して働ける環境が実現できるなら本当に喜ばしい事だと思います。
しかし、下記の通り一方で大変な苦労をされる事業者の方もおられると思います。
【国交省においては各建設業界団体に対し法定福利費の見積もりを含めた標準見積書の書式の作成をするよう指導がされていますが (中略)下請け業者までは未だ福利厚生費分の原資となりうる金額が行き渡っていない様子が伺えます】
《参考URL》
株式会社内田洋行ITソリューションズ
お役立ちコラム
つまり、例えばですが社会保険加入により下請け業者の方の負担も増えるにも関わらず、元請業者から請負う工事の金額は今まで通り…というようなケースも稀にあるということでしょう。
これに関しては複雑な事情や状況もあると思いますので、私個人として意見するのは差し控えたく思います。
ただし、このような結果を受けて平成29年国交省においては、実態調査や残された課題の整理を行っていくとのことです。
今後も注目していきたいと思います。
現在の日本の建築物は安全性を高めニーズを満たす為により複雑かつ非常に高度になっています。その「進化」は多くの経験を積まれた優秀な技術者の方や、また事業者の方の多大なる努力なくしては語れません。
これからもさらなる発展のため、若い方が数多く建設業に携わり不安なく生活の基盤を作り、仕事においても先輩の技術者が積み上げた経験や技術がきちんと継承できるような、そんな業界であり続けることを切に望みます。
私たち行政書士は身近な相談窓口としてこのような情報に常にアンテナを張り、ご相談を受けた際にはベストなアドバイスと対応が出来るように日々努めております。
何かお困りのことがありましたらお気軽にご相談ください。
お待ちしております。